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● 井伏鱒二より伝授される
福田蘭童開発 鮎餌釣技法
秘技として我等にその技を伝授した 然るに我等の釣技一向に進歩せず 心境も後退して何等名教の見るべきところもない
蘭童の厚情を無にするに近い 依って釣技日進月歩の境地にある開高健に蘭童開発の技を秘かに囁きたい
幸ひ君の竿頭須らく童心宿るべしと念ずる次第である。昭和四十八年十月吉日
釣師 井伏鱒二 印

老師井伏鱒二から授けられた
福田蘭童開発 鮎餌釣技法の巻物(複製)
1973(昭和48)年
実物は、神奈川県近代文学館に所蔵されている。
「どうして巻物のまんなかに書くのですか?」
「だってこんな秘伝を巻物をひらいたとたんに読めるのでは有難味がでないのではないでしょうか。まだか、まだかと、どんどん繰っていくうち、その余白を眺めていると、おのずから厳粛になってくるのではないでしょうか?」
「むつかしくなってきましたね」
老師はこころよくお引受けになり、巻物を納めて下さる。ちなみにちょっと小当りにアタってみたが、師はニコニコわらい、断固として秘伝はあかして下さらない。
―『白いページ』―

● 幻の魚「イトウ」
名人は顔じゅう皺になって微笑する。みんな口ぐちに魚の大きさを嘆賞して、珍しいとか、みごとだとかいってくれた。私はおびただしく疲れ、虚脱してしまい、腰がぬけたとつぶやく。タバコに火をつけようにも手がふるえ、肩がすくんで、どうにもたわいないこと。カッと巨口をひらいたまま息をひきとりつつ肌の色がみるみる変っていく二尺五寸(七十五センチ)のイトウに、いいようのない恍惚と哀惜、そしてくっきりそれとわかる畏敬の念をおぼえる。これこそがこの大湿原の核心であり、本質である。蒼古の戦士は眼をまじまじ瞠ったまま静かに死んでいき、顔貌を変えた。
名人がひっそりとつぶやく。
「九歳から十二歳。そのあいだ」
―『私の釣魚大全』―

佐々木栄松画伯作成のイトウの魚拓
![]() | 佐々木栄松画伯と。画伯のアトリエで。右は佐々木栄松画伯の著作と画集 |
















